オフグリッドソーラー発電 第一期工事
   
イラストのサイズ感の太陽光パネルで,発電電力100-150Wくらいになります.

以前からやってみたかった「オフグリッド」のソーラー発電.
まずはスケールダウンした実証試験ですが,運用を開始したので簡単にまとめたいと思います.

■システム概略
   
システム全体として,こんな具合です.
太陽パネルの出力は750W,蓄電池容量は1.2kWh,かなり小規模なシステムです.
詳細は,このあと説明します.

■オフグリッドソーラー発電とは
 オフグリッドソーラー発電とはなんぞや...という方も居るかも知れませんので,簡単に説明します.

 *オフグリッドでないソーラー発電(系統連系)
  最近,個人宅の屋根上にソーラーパネルが載せられているのを,よく見かけるようになりました.
  これらの多くは,発電した電力を自家消費した上で,余った分を電力会社に販売しています.
  そして自家消費量に対してソーラーパネルの発電量が足りない場合,夜などソーラーパネルが
  発電していない時間帯においては,電力会社から電気を購入します.
  このように,電力会社の系統(配電網)と連携しているので,系統連系していると言います.
  特徴は,「基本的に蓄電をしない」「系統連携している」という点です.

 *オフグリッドソーラー発電
  では,オフグリッドソーラー発電とは何かというと,「系統連系しない」システムです.
  オフグリッドシステムの場合には,電力会社の系統(配電網・グリッド)と連携せず,単独で動作します.
  また,特徴として単独で運用する為に「蓄電機能を持つ」ことも挙げられます.

  まとめると,「閉じたシステムで発電・蓄電・放電を行うシステム」がオフグリッドシステムです.


■本実証試験の目的
今回は,完全なオフグリッドに向けた実証試験として,1/10スケール程度のシステムを組んで,
システムとして成り立つのか確認することを目的としています.

■システム設計
最初に,システムの設計を行います.
今回は,適度に常時負荷のある「ダイキン製 カライエ(家屋用空気乾燥機)」を運転することを目的とします.
システム設計にあたっては,いくつかの要件を考えました.
*要件
・システムは「蓄電能力1kwh程度,発電能力500+αW程度」とする.
・蓄電池は,寿命の長い「リン酸鉄」系を使用する.
・POCということもあるので,出来るだけ予算を圧縮する.
・パネルは本運用でも活用したいので,良いものを買う.

この条件で,以下の部品類を選定しました.
・太陽光パネル
  Panasonic HIT 太陽光パネル VBHN243SJ44
   
   ・セルタイプ:単結晶(ヘテロ接合型)
   ・最大出力(Pmax):243W
   ・開放電圧(Voc):52.9V
   ・短絡電流(Isc):6.01A
   ・最大出力動作電圧(Vmp):43.4V
   ・最大出力動作電流(Imp):5.61A
   ・モジュール変換効率:19.1%
   ・サイズ:1580mm×812mm×35mm
   ・重量:14kg
   ・バイパスダイオード:有(逆流防止ダイオードは無)

・蓄電池
  Anker 757 Portable Power Station (PowerHouse 1229Wh) 
   
   ・ソーラーチャージコントローラ内蔵(600W)
   ・DC-ACインバータ内蔵(1000W)
   ・リン酸鉄リチウムバッテリ(1229Wh)
   ・5年間長期保証

太陽光パネルは,開放電圧が50V程度で信頼出来るメーカー品として採用です.

Anker 757 は必要なものがパッケージ化されていて使い勝手が良く,結果的に安くつくため採用しました.
(チャージコントローラ・リン酸鉄バッテリー・正弦波インバータがセットになっていると考えると,かなり安いです)
ただ,Anker 757にも一点だけ困る点があります.
それは,バッテリーを完全に使い切ると100Vの出力がシャットダウンされてしまう点...
更に,再度バッテリーが十分に充電されても,100V出力は自動で起動しない点です.
Anker 757の元に行って,スイッチ操作する必要があります.
現状,バッテリーを使い切らない運用として,クリアしています.
完全放電はリン酸鉄バッテリーの寿命を短くする要因なので,ポジティブに捉えればバッテリーを長持ちさせる副次効果があります.


■POCのPOC
まずは,Anker757の実力を見るために実験をしてみました.
手持ちの50Wの古いパネルで充電をしてみます.
   
どうやら,ちゃんと充電できそうです.
ただ,この程度の大きさのパネルでは晴れていても50W程度となります.


■パネルの枚数や電気回路構成を決める
続いて,太陽光パネルの枚数を検討します.

*発電能力からの検討
一般に,太陽光パネルの発電能力の3倍が一日の発電量と言われています.
つまり,100Wの太陽光パネルが1日に生み出す電力は大凡300Whと言えるのです.
この数値が拠り所の一つになります.

*蓄電能力からの検討
もう一つ,Anker757の蓄電能力から検討します. 太陽光パネルの最大出力動作電流が5.61Aです.
Anker757の太陽光パネル入力は,60V-15Aまで吸い込むことが出来ます.
そこで,3枚のパネルを並列にして,40V-15Aくらいで動作することを期待する構成としました.
この場合,3枚のパネルの発電能力は2.25kWh/dayとなりますので,蓄電能力1.2kWhに対して2倍ほどとなります.
つまり,正午過ぎには充電池は満タンになって,その後の発電電力は無駄になります.
この構成の理由は,蓄電池に対して太陽光パネルの価格が十分に安い為,悪天候時に少しでも発電能力を引き上げる為となります.

*閑話休題
昨今の宅配輸送環境の変化で,大型商品は営業所留め限定となる場合も多いです.
今回のパネルは一畳サイズより一回り小さいサイズなので,軽トラに載せて持ち帰ります.
   

今回使用するPanasonicのパネルには,バイパスダイオードはありますが,逆流防止ダイオードはついていません.
よって,各太陽光パネルに逆流防止ダイオードを追加しています.


■逆流防止ダイオードを決める
太陽光パネルを並列に接続する場合,一部のパネルが影になった際などに他のパネルの電流が逆流しないよう
逆流防止のダイオードが必要です.

一口にダイオードと言っても,ショットキーダイオード...整流ダイオード...色々あります.
そのため,ダイオードの選定にあたっては,色々検討してみました.

ダイオードは,順方向に電流を流している場合であっても,順方向電圧降下と呼ばれる電圧降下があります.
順方向電圧降下した分は熱となって無駄になりますので,ダイオードの順方向電圧降下は低いに越したことはないです.
しかし,大体10Aくらい流すことが出来るダイオードを探すと,それなりに順方向電圧降下のある整流ダイオードに行き着きます.
通常の整流ダイオードでVf=1.1Vくらい,高速なダイオードでVf=1.5Vくらいです.

また,今回の用途ではかなりの発熱があるので,ヒートシンクが取り付け可能な形状のものを選びます.
今回選んだダイオードの場合,順方向電圧降下が1.1Vくらい,6Aほど流すと6.6Wの損失となります.
これは全て熱となってダイオードから放出されるので,それなりのヒートシンクが必要です.


■パネル固定方法を決める
太陽光パネルは,考えうる最大の風や雪に対して十分に耐えられる構造で固定しなければいけません.
今回は,庭のアトリエ上部に足場パイプを固定して,フレームを組んで固定することにしました.
この方法は,かなり昔に実験的に太陽光発電をしていた時に実績のある方法でしたので,今回も選びました.
   

足場パイプの上にレースウェイを取り付けて,そこにパネル固定用のジグを取り付けました.
パネルは一枚14kgもあるので,2人以上での作業をおすすめします.
私は,一人で取り付けを行いましたが,なかなか手こずりました.
   

待ちきれずに,電圧を測ってみます.46.5Vくらい出ています.
太陽光パネルのI-V線図は,無負荷時と最大出力点の電圧がかなり近いはずです.
よって,夕方に無負荷でこのくらい出ていれば良い方だと思います.
   

今回はパネルを並列に束ねるので,接続箱も作ります.
整備性を考えて,タカチ電機の防水ボックスを選択しました.
   

中身は,先にサブ組をしておいて取り付けます.
黒いヒートシンクはダイオードの放熱用です.
各パネルからのラインには,念の為にヒューズも取り付けました.
   

こんな具合で取り付けます.
ネジに緩みがあると,発熱や火災につながるのでシッカリ増し締めします.
   

パネルも取り付きました.
翌日,晴れたので早速発電状態をチェックします.


電圧は約46V,電流は10.5Aほどなので,大凡500W程発電できています.
期待としては600Wなので,ダイオードの損失なども考えると近い値と言えそうです.
   

■ケーブルの引き込み
太陽光パネルからのケーブルは,壁の穴から室内に引き込みます.
今回,太陽光パネル類以外のシステムは室内設置です.
ちょうど使っていないアンテナケーブルがあったので,穴を広げてそこから引き込みます.

モルタル壁なので,ハンマードリルで穴を広げます.
   

通線ケーブルを入れます.
   

ソーラー用のケーブルを入れます.
4mm^2なので,30Aちょっと流せます.
   

カバーを取り付けます.
このカバーは,Panasonicのケーブル入線用カバーです.
   


■現状について
そんな訳で,現在オフグリッドソーラーシステムVer1.0は,順調に運用中です.
大凡,一日に2.0kWh(晴れた日)を発電していますので,試算通りです.
先に述べた通り蓄電設備がそれほど充実していないので,捨てる電気がある点は少し勿体ないです.
しばらくPOCを進めて,最適な発電-蓄電と需要のバランス探りたいと思います.

■気付き
ソーラー発電は,空模様に非常に左右されます.
晴れていても,雲が太陽に掛かると発電量が1/3や1/5になります.
更に曇天だと1/10,雨が降ると1/20という塩梅です.
よって,オフグリッドソーラー発電は蓄電池無しには成り立たないと考えています.
(例えば,モバイルデバイスやEVの充電は,デバイス自体が蓄電池機能を持つので成り立ちます.)

蓄電池を増やせば梅雨時などにも安定して使うことが出来ますが,コストが跳ね上がります.
太陽光パネルが非常に廉価なので,悪天候に対しては太陽光パネルを増やして対応する力技もありだと思います.(いわゆる過積載)
また,消費電力が嵩む暖房に関しては蓄熱式(エコキュート)の活用も考えられますが,ピーク電力が大きくなってしまう点が悩みのタネです.
設備容量(kw)と蓄電池容量(kwh)のバランスの検討が重要ですね.
オフグリッドは奥が深いです.

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